淵野辺から世界へ!

20代。140字以上。

アドリア海のはなし

祖母の認知症が進んでいる。


半年前に家の中で転倒して骨折し、入院したあたりからおかしくなり、いまはもう、彼女は僕を忘れている。

 

年をとると環境の変化に順応できなくなる。

長い間住んだ家を離れるのは大きな変化で、入院日数に比例し、1日ごとに記憶障害が深まっていく。数週間の入院生活を強いられた結果、1人ではもはや日常生活が送れなくなり、老人ホームに入居することになった。大好きな畑仕事をすることはおろか、1人で出歩くことももう一生ない。

 

こんなこと、話としてはよくわかるけど、肉親が自分に対して、知らない誰かと接する態度をしてくる体験は強烈だ。


祖母はたくさんを知っている。

山梨の小さな村の女性で大学に行ったのは、村で彼女だけだった。関東大震災や第二次大戦、高度成長やバブル崩壊、戦争も平和も知っている。変化の時代に子どもを育て、孫を愛で、曾孫を抱いた。

 

祖母は旅行の話をよくしてくれた。
北欧のフィヨルドの話、アドリア海の話、ハワイやエジプトの話もしてくれた。自分の旅行好きの原点は彼女から生まれたように思える。